sognamo insieme

君を夏の日に例えようか

黒いハンカチーフ

「黒いハンカチーフを拾った。落とし主の連絡を乞う」

それはかつて、伝説の詐欺師フジケンが、大きなヤマを仕掛ける時だけ使っていた暗号広告だった。

高度経済成長期の日本を舞台に、世紀の詐欺事件が幕を開ける-

たった4日間ですが、濃厚でしっかりとしていて痛快なお芝居を観せていただきました。

昭和30年代にタイムスリップした4日間。

舞台は法的に売春が認められていた場所、赤線と呼ばれる街(今でいう新宿2丁目)。その赤線が廃止される寸前のお話です。

ヤクザの下っ端、宮下は衆議院議員の海老沢の賄賂の証拠を見つけ強請っていた。しかし、取引に向かった宮下の彼女、夢子は店の前で何者かに轢き殺されてしまう。夢子の無念の死にやりきれない赤線にある喫茶ノアールに集まる日根先生を中心としたメンバーは夢子の仇討ちを決行することに…

といった、分かりやすく面白い展開でした!

年をサバ読むけど可愛らしい夢子しゃん、ドジな下っ端小物感満載の憎めない宮下、自分たちの命を安売りする捨て鉢の娼婦たち、可愛いのに強い佐登子ママ、そして中心にいる日根先生というノアールのメンバーがとても好きでした。

詐欺をはたらきはじめてから、うっかり者の松平とクールな神谷が加わって、より魅力的になる感じが好き。

この話の中心にいる娼婦たちがやたらと捨て鉢で。「自分なんて死んでもいい」みたいな考えの持ち主ばかりで。もう赤線もなくなって仕事を失うし、そもそも自分を大切にできなくなってるからなんでしょうけど。それが悲しいような潔くてかっこいいような。

日根先生は医者なので怒ってたけど、その自分のことを省みない危なっかしすぎる真っ直ぐさが日根先生を動かしたんだと思っています。

夢子しゃんは宮下のことが本当に好きで良い奥さんになりたくて必死なのがいじらしくかったです…。残念なことにすぐ死んじゃうんですが。ここで夢子が魅力的じゃないとこれからの話の説得力が大きく変わってしまうので、夢子って大事な役だなあ、と。夢子姐さん、とっても良かったです。

そして、悪役たちの魅力が凄まじくて…!

演技が達者なおじさんたちが集まって本気なのか演技なのか分からないくらいふざけた芝居をしているんだから、もうおもしろいに決まっています。

るひまさんは本当に面白おじさんたちを持ってくるのが上手で、小劇場界隈にあまり詳しくない私はいつもその実力にびっくりしています。

今回はるひまにしてはふざけ度低めでしたが、それでも、脇を固めるいぶし銀の強烈なことといったら…!!

楽しくて面白いんです。でもめちゃくちゃ怖い。怒らせたらいけないオーラがビシビシと出てるような感じ。この緊迫感は、普段若い人の舞台ばかり行っている私にはとっても刺激的でした。

正義が光り輝くのは魅力的な悪役あってこそだと思うので、素晴らしい影だったなあと。牛島も銭田警部も海老沢も。あとはいぶし銀ではないですが、キヨシ(笑)メタルさんはこういう癖のあるキャラをやらせるとピカイチですね!言葉ほとんど聞き取れなかったけど、面白かったなあ。

コンゲーム自体は読めるところもちょこちょこありました。が、最後の佐登子ママには綺麗に引っかかったのでスッキリしましたー。こういうのは騙された方が楽しいと思うので。

どこからが詐欺なのかお客さんも分からないので、一緒にハラハラした展開に巻き込まれました。

そもそもこの件の前に日根先生が本当に詐欺をやってなかったのかも分からないですからね。

深読みをしようと思えばいくらでもできるので、リピートは色んな人の表情を見るのに必死でした。

日根先生は渋くてかっこよくて。特に後半から、周りとコミュニケーションを取りつつ周りに任せちゃうというか、そういう余裕が出てきて特に良かったです。

40歳という役設定はとっても厳しかったと思いますが、年齢よりどっちかというとグループの中の在り方というか、関係性を見せる方が大変な感じがしていました。みんなが頼れるような昭和の定番のヒーローのかっこよさをこの時代で、この年齢で演じるのってかなり難しいと思っていて。

後半から矢崎さんがどんどん柔らかく余裕を持って演じていて、良い意味で「隙」ができるということが大事なのかもなあ、と思いました。あの演技が達者な先輩たちの真ん中にどーんと居るってかなり大変だったのだと思います。なんとなく、普段よりカーテンコールでホッとしたような表情だったし。

しかしカンパニーの雰囲気がとても良く、温かく矢崎さんとの関係を築いていたようで、それが日根先生と仲間たちとしても表れていたような気がして、とても好きでした。

それにしても4日間ノンストップだったにも関わらず、どんどん変化していった矢崎さんの柔軟性に改めて驚きました…。

そして私はるフェアが大好きなので、あっちゃん演じる神谷と日根先生のコンビもとても好きでしたー!

2人の演技の信頼感というか、お互いどんな暴投しても大丈夫なんじゃないかという関係性がとても好きで。

義経くんと弁慶くんに泣かされた身としては久しぶりのタッグに歓喜でした。

また違う舞台でこの2人を見れたら幸せです。

その点、凌くんの鬼塚なんかはあまり日根先生とのやり取りがなかったので残念でした。2人ががっつりと芝居しているのをまた観たいです。

お話として痛快で楽しく後味もすっきり騙されて終わるので、エンタメを観た!という気持ちになれて楽しく通えました。

カーテンコールで満面の笑みで涙を噛み殺しながらスタオベを眺めて深くお辞儀をする矢崎さんに、もう何度目か分からないノックアウトをされました笑

なんと10月は矢崎さんの主演が2本もあります。明後日からバイオハザードです。こちらもホラーは苦手ですが楽しみです。

目まぐるしくて大変ですが、これからも矢崎さんがどんどん壁をよじ登っていくのを陰ながら応援していきたいと思います。