sognamo insieme

君を夏の日に例えようか

Eternal CHIKAMATSU

エターナルチカマツ、現代と過去が交錯し、蜆川の渦に巻き込まれたような作品でした。

ほんのちょっと、15分だけの恋のはずだった。

止むに止まれぬ事情から、売春婦になったハル。割り切って始めた商売だが、 足繁く通うジロウ(妻子持ち・現在失業中)と命懸けの恋に落ちる。周囲の反対を押し切ってこの恋を全うすることが出来ないと諦め、ハルはジロウに愛想尽かしをしたふりをして心ならずもジロウと別れる。自暴自棄になって街をさまよっていたハルは、かつて遊女の涙で溢れたという蜆川(曽根崎川)のあった場所で、ハルと同じ境遇にある、妻も子供もいる紙屋治兵衛と命懸けの恋をしている遊女小春と出会い、近松門左衛門の江戸の世界、古い古い恋の物語に引きこまれていく。

以下感想

15分の恋ってそれなんですね、っていうくらいに意外とエグかった序盤。

深津さん演じるハルは売春婦で身を切るような生活をしている。そのウリの最短時間が15分。どうしても古典が結びつくと高尚な印象を持ってしまうんですが、思い起こせば源氏物語だってカルミナ・ブラーナだってジャンルは違えど昔のものってセクシャルなものが今よりずっとあっぴろげな気がする。

それを現代でもやってみたんでしょうか…?美しい深津さん演じるハルの口から語られる生々しく絶望的な現実が重すぎて最初から泣いてました。

返しきれない亡き夫の借金、愛していたジロウとの別れ。自殺しようとするハルの後ろから現れる小春は幻想的で怖くて美しかった。

観ている方も地に足着いたリアルなお芝居から、不思議な空間に飲み込まれていきます。

七之助さん演じる小春が思いっきり歌舞伎だったからかもしれません。

歌舞伎を異空間としてリアルなお芝居に放り込んだことでファンタジーにすんなりと入り込めました。

小春は喋り方は歌舞伎の声の出し方なんだけど、話してることはとっても分かりやすかったので、まるでホンヤクコンニャクを食べたような感覚でした。いや、歌舞伎でも何話してるのか分かりますけどね。より噛み砕いた言葉になっていたので。

そこから、忙しい人のための心中天網島といえばいいのか、河庄と最後の心中の場面を上演します。

小春は心中してから今日まで107882回、毎日心中天網島を上演している。それを観て喜ぶ観客、真似する恋人たち。初めは心中に同意していたハルだったけれども、徐々にそれはおかしいと感じ始める。

作者の近松門左衛門らしき人物とともにハルの心中を止めようと画策し始めます。

この話のテーマに「心中ダメ絶対」っていうのも含まれていると私は解釈しているのですが、自分自身不倫とか心中とか当人同士の問題だし放っておけばいいのに、っていう考えなので、ここでハルから「心中観て楽しむ観客は悪趣味だ!」と糾弾されるのはちょっと解せなかったです(笑)

受け取り方が捻くれているだけなのかもしれませんが。

こういうので真似して心中とかしちゃう人はどこかでこじつけて同じようなことするから!近松気にすんな!くらいに思ってました。

愛の形というのは人それぞれの正解があって、小春とジロウの決断もおさんを悲しませるけれども、それはそれで良いんじゃないかな、というのは今も思っていますが、ハルは単純に小春のことが好きになったから、今日くらいは心中しなくてもいいじゃない、と声をかけます。

生きてみても良いんじゃないかな、と。

そんな素直なハルだから、小春の心中を止められたのかなとも思います。

そして小春はずっと蜆川でハルを見守っていた亡き夫。小春を通して人生を歩む方向へ導かせていました。

小春の頑固なところも何も言わず黙って決めてしまうところも、優しいところも思い返せば全部夫に通じていたわけです。

全部アンタの所為なのに何言ってんの!と思ったのは全部観終わって余韻が醒めてからのこと。

観ている間はあの世界に入り込んじゃうので、スッキリと泣き、スッキリと笑顔で見終えました。

何も解決していないのに、とても明るい気持ちで終われるところは、サ・ビ・タを思い出しました。

物語としてはぐるぐる考えてしまいますが、人生なんて結局気の持ちようなのかもしれないですね。

深津さんの舞台でのお芝居、七之助さんの小春(海老反り!)、伊藤歩さんという素敵な女優さんを観れて、矢崎さんにこの舞台に連れてきてもらえて良かったなあと思います。

できればもっと印象に残る役ならなお嬉しかったですが…!いや、私の印象には残ってますが、矢崎さんを知らない人たちにはどうなのかなあと思って。

最近素敵な役どころが多かったので、今回はちょっと消化不良でしたが、こんな素敵な作品に呼ばれる俳優さんになっているということに、ファンとしては嬉しい気持ちももちろんあるので、また七之助さんらとガッツリ対峙するような役を見れたら幸せです。

ルヴォーの演出はスタイリッシュで、集中を切らさない仕組みで、濃厚な時間でした。

ちょっと昨年6月の四谷怪談を思い起こさせました。あれも好きな演出だった。

古典をスタイリッシュにされると無条件にかっこいい!って思えるタイプなので、こういう演劇がもっと続いていくと嬉しいです。

できれば次は歌舞伎入門編からもうひとつ入ったところまで観れたら、もう少し解釈を観客に委ねてくれる余白のあるものが観れたら嬉しいなあと個人的には思います。