sognamo insieme

君を夏の日に例えようか

季節が僕たちを連れ去ったあとにー「寺山修司からの手紙」山田太一編(岩波書店刊)よりー

山口翔悟(寺山修司矢崎広(山田太一)回を観劇しました。

<あらすじ>

寺山修司山田太一が過ごした学生時代、寺山は19歳で腎臓の病気(ネフローゼ)を発病し、入院していた時期に交わされた2人の書簡集。

それから季節は変わり、2人は大人になり、別々の道を歩み…

最後にひととき、またかけがえのない時間を過ごします。

若者たちでなければありえなかった、創造するエネルギーの入り口で出会った2人の永遠の時間。

<感想>

正直なところ、寺山修司さんも山田太一さんも作品名を聞いたことはあっても実際拝見したことのない方々のお話だったので、とてつもなく不安な気持ちで挑みました。そして序盤の本の引用が多用された手紙の部分から、内容を全て理解をすることは諦め、ただただ2人がどういう心情で過ごしていたのかを感じ取ることに専念していました。

在学中ネフローゼに侵されて入院している寺山と、その見舞いに来て話足りずに手紙のやりとりをする山田。2人の友情と青春を書簡を元に構成されていたのですが、その構成がとても良かった。

私のようにお二方をミリしらで挑んできた人間にも極力分かりやすいように構成されていたなあ、と思います。

山田さんと未知さんが寺山さんを思い出すように始まる序盤から、大学時代へと時が戻り、時系列に沿って2人の気持ちの流れを、実際の書簡や寺山さんの初期の作品、日記を組み合わせて辿り、社会に出た2人の関係性を現在の太一さんと未知さんの回想で描き、寺山さんへの弔辞で閉幕します。

観終わってから原作本を読んだんですが、このエピソードが飛び飛びな本が綺麗に1つの作品として構成されてたなあ、と演出の広田さんに感心しっぱなしでした。

手紙のやり取りが主ですし、前半は寺山の病気の話と思想や恋の話が多いので静かに話が展開されていました。この辺が本の引用や大学の友人の話などが見えなかったため、一番理解が難しいところだったんですが、山口さんも矢崎さんもとても感情豊かに読まれるので、落ち込んでいたり、怒っていたりしながらも互いを大切に思っていることが節々に伺えて微笑ましく見ていました。

喧嘩のあとの仲直りの仕方や、手紙が来ないことへの不満の伝え方が回りくどくて可愛いなあ、と。

ぐっと引き込まれたのは、太一の自殺未遂の場面からです。

「僕は、乞食のようなんだよ」と言う台詞にぞわぞわと鳥肌が立ちっぱなしでした。やっぱり矢崎さんに劣等感のある役柄を演じさせるとピカイチだなあと思います。

太一のホンモノが隣にいる劣等感や焦燥感は本当に痛いほど伝わってきて、それは社会人になってからの場面でもそうでした。

上下の差はあったけれど、大学という同じ箱で同じことを学び、同じものを目指し、創作し、その時は確かに隣にいた友人と、社会に解き放たれてから同じステージに立てなくなる恥ずかしさに共感し過ぎて心臓が痛くなりました。学生の時に話していた内容と比べて社会に出てからの自分の発言のなんと俗っぽいことか。もしかすると私自身がモラトリアム期間が長かったので、より痛かったのかもしれません…笑

あとは山田太一ドラマ「早春スケッチブック」の一場面。

『人間ってのはもっとすばらしいもんだ。自分に見切りをつけるな。人間は給料の高を心配したり、電車がすいてて喜ぶだけの存在じゃないんだ。

その気になりゃあ、いくらでも深く、激しく、ひろく、優しく、世界をゆり動かす力だってもてるんだ。』

という台詞が大好きすぎました。語る山口さんは全く台本を見ず訴えていて、もはや朗読劇ではなくて劇中劇でした。

このドラマ見たいです。

最後の山田さんの寺山さんへの弔辞の場面でこれまで淡々と受け止めていたのに突然こみ上げてきてしまい、ポロポロと泣いてしまいました。

矢崎さんの太一のこの場面が絶品で…

真っ直ぐ前を向いて涙を流しながら弔辞を読み上げる演技に、途中ではたと「これは演技…なんだなあ…」とちょっとだけ恐ろしくなりました。

本当に弔辞をお葬式で聞いている感覚になってしまっていたからなんだと思います。

山田さんが「じゃ、また」と弔辞をしめる時の後ろにいる寺山さんの表情と、その後山田さんが寺山さんに笑顔でハグをしに行き、笑い合う2人が愛おしく、本によって結ばれた一生に一度巡り会うかのような関係に少し羨ましさも覚えました。

また、個人的に利害関係で結ばれた友情なんてくそくらえだと思っているタイプの人間なので、そんな私と一緒にいてくれる今の自分の周りの人たちを大切にしたくなる素敵な作品でした。

矢崎さんにも時々書いてますが、色々な人に手紙書こうとも思いました。手紙は財産になりうるのだな、と。

ちょっとだけ物申すなら、2人の濃密な人生を2人の役者だけでじっくり観たかったなあ…と思います。単に私の小劇場アレルギーが出てきただけとも言えます(笑)。

山口翔悟さんは初めてお見かけしたのですが、とても端正なお顔立ちで素敵なバリトンボイスで、読み方も心地よくって、良い俳優さんだなあと思いました。コミュニケーション能力が低く、人との距離の取り方がおぼつかないところが、天才肌あるあるでとても良かったです。

矢崎さんは「寺山さんは四十七歳で亡くなり、私は八十一歳になってしまった」という印象的な台詞から始まり、その後作中で2回繰り返すんですが、その言い方が全部違い、あまりにも自然にしっくりときているので、噛み締めるように堪能させていただきました。

やっぱり彼の間の取り方は凄いです。観客の笑いや引力を操ることができる。難解な台詞を「読む」のではなく「伝える」ことができる。

やっぱり彼の演技が大好きだなあ、と改めて気づけた公演でした。いつも言ってますが…(笑)

普段生活していると、どうしても自分の好みのものや愛着のあるものが生活の中心になっていって、もちろんとても心地よいんですが、矢崎さんから色々な知らない世界に連れていってもらえるのがとても楽しかったりします。

寺山修司山田太一という、命を燃やすように生きた2人を知れて良かったと思いました。

トライストーン制作はとっつきにくい話を丁寧に作ってくれるので、これからも楽しみにしています。