ラヴ・レターズ(矢崎広 & 妃海風)
ブログへのモチベが下がってきたので、気分転換にはてなブログへお引越ししました。また少しずつ更新します。
《あらすじ》
アンドリュー・メイクピース・ラッド三世と、メリッサ・ガードナーは裕福な家庭に生まれ育った典型的WASP (ホワイト アングロ サクソン プロテスタント‥‥‥‥アメリカのエリート人種)である。幼馴染みの二人は対照的な性格だ。 自由奔放で、束縛を嫌う芸術家肌のメリッサ。穏やかで、内省的、口よりも文章で自分を表現するのが得意なアンディー。 アンディーは自分の感じること、彼女についての自分の意見などを折にふれてメリッサに伝える。メリッサは手紙よりも電話の方が楽で好きだ。 しかし、電話で思ったようにコミュニケーションできないアンディーの手紙にはつきあわざるを得ない。
思春期を迎え、それぞれ別の寄宿学校に送られて過ごす二人。会えるのは休みで親元に戻った時だけである。 伝統的な暖かい家庭に守られているアンディー。一方、メリッサはアンディーより裕福だが、離婚と結婚を繰り返す母親のもとで孤独な思いを噛み締めている。 恋に目覚める季節、お互いを異性として充分意識する二人だが、どういう訳かぎごちなく気持ちは行き違い、しびれをきらしたメリッサは他の男の子とつきあってみたりする。そして、遂に決定的に結ばれるチャンスが巡ってきた夜、二人は友達以上にはなれない自分達を発見する。
大学を出た二人はいよいよ全く別の道を歩き始める…。
あまりにも有名な朗読劇でいつかは観なければと思っていた作品。
ありがたいことに矢崎広さんがアンディを演るということで初めてのラヴ・レターズを推しで観ることができました。
舞台は椅子と机にお水が置かれているだけ。2人はずっと椅子に座ったまま、幼い頃から晩年まで送りあった手紙を読み合う形式。
アンディもメリッサもザ・欧米人で、私が共感できるところはあまりないかなといった感じでした。
アンディは手紙が大好きで大好きでデリカシーをどこかに置いてきたオタクぽい少年。メリッサはメンヘラ気のある気分屋で遊び好きの女の子。
2人は手紙を通してお互いを知り、そして実際に会って違和感を拭えないまま長く時を過ごします。
あまり共感できなかった2人ですが、アンディとうまくデートできなかった後日「手紙を通して見せているあなたは本当のあなたではない」とメリッサが言い放つ場面があり、これは割と経験あるなあと。
私もネット上の私と実際の私に乖離があり、それは小さな違和感を会った人に与えているのではないかと思ったりします。見えている部分が違うだけだったりするんだけど。
矢崎さんの演じるアンディはといえば、メリッサにそんなことを言われても手紙が好きで、手紙を書くという行為が好きで、書く相手はメリッサが1番!、と友情なのか恋情なのかどちらともとれないもはや執着のようなものを感じました。アンディにとってメリッサは手紙を書くことの延長線上にいるんだと思います。だから会うとすれ違う。お互いが見えない誰かを探すことになってしまう。
なのでこの2人は手紙のやり取りのみでなければうまくいったのでは、というすれ違いを作品中多々起こします。
手紙ってお互いが自分の気持ちと相手の気持ちを図るタイミングに時差がありすぎるんでしょう。結局2人の気持ちが同じ時間に重なったのは、だいぶ大人になってからで。
でもアンディにとって、どんなにスムーズでも手紙のない成功は意味をなさない。それくらい手紙を書くことへの熱を感じました。
結局二幕でアンディとメリッサは不倫関係にもつれ込むのですが、堕落したメリッサの魅力に抗えず会いに行くエリート議員のアンディは、正直色気の塊でした。倫理観と欲に揺れ動いて結局欲に負けてしまう時の色気といったら。二幕からスーツなのもあいまって最高でした。
矢崎さん本人がご結婚されて、よりこの辺りのリアリティや色気に拍車がかかったような気がします。
新たな幅を見せてもらった気がしました。
前半心の隙間を色んな人で埋めていたメリッサが、アンディへの気持ちを自覚してからの後半どんどん不幸になっていくのは見ていてしんどかったです。妃海さんのメリッサは媚びずに美しく、哀しかった。アンディ以外にもその弱さに気づいてあげられる人がいたら良かったのに。
この物語はメリッサの死で幕を下ろします。メリッサの葬儀に宛てた手紙がきっとアンディにとって最後の手紙なのでしょう。だんだんと落ちて行く照明のなか、メリッサへの手紙を読む場面は同時に手紙の中にいるもう1人のアンディの死も感じさせました。遠くを見つめる妃海さんのメリッサと一緒に静かに消えたようでした。
笑いも涙も苛立ちも伝わる繊細な朗読劇でした。ファンとしてはまたあと10年ほどしてから見てみたいような気がします。
最近手紙にまつわる朗読劇が多い矢崎さん。またお手紙を書こうと思います。