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君を夏の日に例えようか

演劇ドラフトグランプリを講評してみる

2022年6月14日、ド平日の武道館で行われた演劇ドラフトグランプリ。一観客として観劇と投票をしてきたんですが、他のブログで講評してるのを見て面白いなーと思ったので私も各劇団の講評を書きます。面白企画だったので色々改善して来年以降もやってほしい。

 

ID Checkers
『キセキの男たち 』

演出:中屋敷法仁

中屋敷法仁の良いところがギュッと濃縮されており、かつ万人受けしやすいストーリー。ドラフトや奇跡*1というテーマに合わせて野球という題材、未来の自分やライバルという分かりやすい壁とそれを打ち壊すまでを20分で綺麗にまとめていたと思う。冒頭が渾身の一球を打たれる場面から始まり、これは悔しい場面なのかなと思わせておいて、ラスト同じ場面を見せて晴れやかな気持ちにさせる仕掛けが上手い。中屋敷さん得意の言葉遊びも美しく、令和のシェイクスピアだと思った。

講評にもあったが、最初に誰を中心として見れば良いか分かりにくい点と、中屋敷さんの台詞慣れしていないキャストが多かったためか台詞が聞き取りずらい点が惜しかった。

荒牧くんのお芝居があまり見たことがないタイプの演技で良かった。ヒールもできる役者なのでもっとこういう幅も見たいな。

 

劇団 打
『林檎』

演出:西田大輔

中屋敷さんが勝ちを狙いに来ていたとすれば、西田さんは勝ちにこだわらず自分の色をガッツリ出していたように見えた。私があまり西田さんの演出に慣れていないのもあり、非常に言及しづらい内容。今ここの話でもあり、ファンタジーでもあり、SFでもあるような。

実際の観客を巻き込んで芝居に取り込んでいたが、突然でポカーンとしてる間に終わってしまっていた。でも上手くいけば自分ごとに捉えられるので面白い試みだと思った。

佐藤流司入れ替え作戦も、オタクは声を知っているので仮面が外れた瞬間に「!?」ってなるけど、審査員はそんなに佐藤流司に詳しくないのでここもポカーンだったのでは。台詞のひとつひとつも音読みが多くて理解するのに時間がかかる。これは薄ミュでも度々思うので西田さんの特徴なのかもしれない*2

 

超MIX
『Luda』

演出:植木豪

私が持っていた植木さんの印象よりかなり難解な作品だった。1番近い印象なのはエーステ秋冬公演のGOD座*3。ダンサブルな部分は印象通りだし、そのための配役と思えた。劇団 打と同様客席を自分達の味方のオーディエンスとして表現していたが、作品が入り込めずイマイチ乗り切れなかった*4

照明の美しさに定評のある演出家だが、床に照らす演出が多かったため、肝心のテーマである「虹」の演出がアリーナでは全く気づけなかったのが残念。会場の都合か植木豪得意のレーザー演出や電飾ダンスもなく、本来やりたかった演出に会場の機材レベルが追いつかなかったのではと感じた。ダンスの表現に関しては頭ひとつ抜けた役者を多く揃えていたので、いっそ台詞なしでノンバーバルな芝居にすれば良かったのでは。

てゆーかこのキャストならチア男子観たかったなーーー!(本音)

 

劇団 ズッ友
『天を推し歩く』

演出:松崎史也

星を描くことの得意な演出家だと思う。誰でも知っている伊能忠敬の日本地図を完成させるまでの物語を20分で描き切ったのがまずすごい。主演にオジサン枠の唐橋さんを投入し、人たらしな求心力のある芝居で、年齢に囚われず信念を貫き、周りの人を巻き込む伊能忠敬という役柄を存在しているだけで説得力を持たせていた。周りの役者も芸達者揃いで、軽妙だが心根の良い人物を違和感なく演じていた。

テンポはかなり速いが、笑いと涙のタイミングや心を掴む台詞のタイミングが見事。伊能の死後、彼の思いを受け継いで地図を完成させる仲間たちに胸が熱くなった。

作品のラスト、武道館の空に大きく広がった地図を、大好きだった星を見るように見上げていた伊能忠敬の表情が焼き付いている。暗転後に一瞬静まった後大きな拍手で、これは優勝だなと確信した。どこか他の場所でまた見たいくらい素敵な作品だった。

エーステで4年間、20分の芝居を作り続けていたアドバンテージももちろんあると思うけど、そもそも史也さんは纏める力と伝える力に長けていると思う。他の演出家より色がないので、個性と呼べるものはなんだろうと思ってしまうが、そういえばいつも星の演出が素敵だと思っているので、星の演出が得意な演出家だと私は認識しています。

 

審査員

少年誌の編集長が勢揃いし、ナタリーの編集長とローチケの社長、モーリーさん、応援団長にクロミという豪華なラインナップ。2.5に馴染みのある方々もいるが、難解な作品へのコメントがふわっとしていて(「顔が良い」等外面に終始するのはさすがに…分かりきったことなので…)、国内の主要な演劇賞の審査員も数名いれば良かったのかもしれない。あとのがしょ。司会の尾上松也さんが1番内容に言及していたように思う。クロミのズッ友への「クロミ化計画も一歩一歩の積み重ねが大事だと感じた」という講評もとても良かった。というかクロミが良かった。緊張感を和らげる存在でもあり、若手俳優たちがクロミにメロメロなのは見ているこちらも楽しい。

 

物販

爆速で売り切れ続出して萎えに萎えた。反省してほしい。DMMのアクターズリーグの管轄で一緒にお願いしたらどうですか??DVDの発売も未定ですし…。アクターズリーグってちゃんとしてたなあと思わせるグダグダっぷりでした。うちわも使いどころ分からなかったネ!次回は頑張ろう!

 

総評

コロナ禍でより浮き彫りになった、演劇界の縦割りの状況*5を鑑みるに、2.5という新しいジャンルが切り開かれ、演出家も役者も様々いる状況だからこそ、実現しえた企画だと思った。荒牧くんはすごい。

私は業界内で*6横のつながりや縦のつながりが広がることは、その産業の発展に寄与すると考えているので、この企画は普段会うことの少ない演出家同士や役者同士が集う貴重な機会になり得ると思えた。今後の課題は少々あるが、ぜひ来年以降もお祭り企画として継続開催してほしい。

演出家としては松崎さんは前回優勝者として除外されそうなので、もう少し見やすい演出家も投入してほしい。私の好みである毛利亘宏さん、末満健一さん、西森英行さん。その他にも西田シャトナーさん、ウォーリー木下さん、ほさかようさん等も色がはっきりしているので面白いと思う*7

ドラフトという誰かが誰かを選ぶ図はあまり好きではないが、企画としてはこれまでやりたくても出来なかった意欲的なものだと思うので、これからに期待したいと思う。

*1:GREEN??

*2:あと、私が単純に言葉の変換能力が低い

*3:わかる人にしかわからない例え

*4:せっかく武道館が東西南北で方角のある世界線の話なのに東と南のブロックに向かって「西の皆さん!」って言ってたので、客席を使いたかったのかも不明

*5:こういう時だからこそ、垣根を超えて一致団結しなければいけないのに同じようなクラファンが乱立していて、正直頭を抱えた

*6:業界外とも

*7:こう見ると、2.5界隈って本当に層が厚い。まだまだいるし