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君を夏の日に例えようか

演劇ドラフトグランプリ2023講評

去年観た時あまりにも楽しくて、絶対来年も観たい!!!と思っていた演劇ドラフトグランプリ。

 

k1mg.hatenablog.com

 

今年は推しは誰もいなかったんですが、フォロワーさんにお譲りいただいてアリーナ最前列で鑑賞させていただきました!!もうこんなことないよ!!

観客も審査できるという貴重な経験なので、個人的な講評を書いていきたいと思います。

 

 

劇団『びゅー』

「天へ態を招く(てんへわざをおぐ)」

テーマ:天気
演出:松崎史也

昨年優勝演出家による作品。素直な感想だとハードルが上がりすぎてしまっていた。昨年の「天を推し歩く」があまりにも良くて。振り返り配信で見直したんだけど、やっぱり最高の作品だった。

今回ももちろん面白かったんだけど、私が日本神話について知らなすぎて前半入り込めなかった。天岩戸の話はざっくりとは知ってるんだけど、なぜスサノオが母に会いたがっているのか説明がなかったり「ウケイ」という単語の耳馴染みのなさが、まだ会場が温まってないタイミングだとどうしても気が逸れる。トップバッターって難しいんだな…。

天岩戸からアマテラスを引っ張り出す場面からは観客参加型ですごく楽しかった。ケチャのような手と足を使ったリズムを取り入れて、東西南北の観客が違うリズムでダンスを盛り上げて一体感が生まれた。武道館の東西南北を活かせばいいのにって昨年思ったチームがあったので、史也さんの会場を生かす演出はさすが第一回経験者だった。

この後ずっと観客のノリが良く楽しめたのは絶対この場面の功績だと思う。そういう意味では最初がこのチームで良かったけど、評価のしやすさは絶対後半だったネ。

台詞も伝えたいことが多いのか20分にまとめるとボヤけてしまう印象。これは前回他のチームでも思った。でも、最後の武道館に元々掲げてある大きな日の丸を照らして「天晴れ!」で終わるのは最高。

史也さんが結果発表後「この幸せな気持ちも悔しさも全部抱えてこれからも作品を作る」って言っててアツすぎた!!来年に期待だよ〜!!推し演出家なので。

 

劇団『国士無双

『君だけの宝物』

テーマ:宝箱
演出:中屋敷法仁

毎回勝ちに全力な中屋敷さん。柿喰う客がカルピスの原液だとしたら氷が溶けたカルピスウォーターくらい自身の作風の毒を薄めて、このお祭りに合った作品を作ってくれる。

サンタクロースを主役にしたファンタジーにも関わらずがっつり戦争ものだったので前作よりは大分重かった。主演の染様をはじめとして芸達者な役者が多かったのでところどころ笑いも挟んで重たくなりすぎない絶妙な塩梅だったと思う。戦争孤児で名もなき子の糸川くんの本気が凄かった。責任の重い役だし悔しかっただろうけど精進して芝居続けてね…。あと長妻くんの顔が良すぎた。染様と並んでなにあのイケメンサンタペア。

銃を望む子どもと、子どもを信じているサンタ、サンタを信じているトナカイ、サンタに傷ついてほしくないサンタっていう優しい人たちで構成されてて、子どもにも見てほしい作品だったな。私はもう少し中屋敷さんの毒が欲しかったので綺麗すぎるなと思ってしまった。結局名もなき子の将来は暗くて何も変わっていないままだけど、終演した後走ってトナカイとはしゃぎながら袖に帰っていく名もなき子を見ながら、明るい将来を祈って涙が出た。

 

劇団『品行方正』

『愛のシンクロ』

テーマ:待ち合わせ
演出:三浦 香

1番のカオス作。何が起きてるか分かんなかったしどうやって終わるのかも分からなかった。でもひたすら面白くて笑ってた。待ち合わせ場所に因縁のある人たちが集まって裏切り裏切られのコメディ作品。後半に向かって散らばっていた伏線が回収されていくのが見事だった。途中で何を見せられてるか不安になるのに終わった後面白かったー!ってパワーで捩じ伏せられてるの凄い。

七海さんと唐橋さんのシンクロも観れたの本当貴重だった。七海さんは退団してもかっこいい役ばっかり見るからファンは幸せだろうなーって思います。

強いて言えば今回1番好みが分かれる作品だったかも。私は楽しく観ましたが、このメンツならもっとアングラな芝居でも良かったな。

 

劇団『一番星』

『Last Shining Ray』

テーマ:アイドル
演出:川尻恵太

面白すぎた!!!!私の中では大優勝!!!!

イケメンで歌も歌えて踊りも凄くてアイドルの素質しかないメンバーで固まってるのでパフォーマンスがすごい。それ以上に脚本のコメディとしての仕上がりに舌を巻いた。馬鹿馬鹿しさの加減が上手い。アイドルが法で禁止されるという非現実的な展開ながら社会への皮肉を織り交ぜて彼らが武道館のステージで歌うまでを綺麗な流れで描いていた。最後のフル尺で歌うのも長かったけど、エモーショナルで好きだったな。

このチームのメンバーがみんな笑いを取る間が上手くて、あえてホームランを打たずずっとバントで繋ぎながら笑い取ってる感じだった。メンバーそれぞれの掌に「あ」「ら」「ま」「き」ってあざがあったネタ、未だに面白くて思い出し笑いしてるもんね。

コメントで川尻さんが「コメディでテッペン取りたい!」って言ってたのが良かった。やっぱりコメディで勝つってめちゃくちゃ難しいと思ったもん。私はこの企画にお祭り感を求めているので、自分の気持ちに正直になってここに投票したけど、優勝したら荒れるだろうなとも思っていた。来年に期待しています。

 

劇団『恋のぼり』

『こいの濠』

テーマ:初恋
演出:私オム

とにかく脚本が良かった。初恋がテーマで沖縄戦首里城の地下を掘る少年たちの友情ものになるとは思わなかった。少年たちは戦時中の緊張感や不安を和らげるために小さな恋の話をする。それぞれが抱えている想いが20分の間に少しずつ見えてきて、年老いた山城役の萩野さん以外全員ほぼ同じ髪型、同じ格好にも関わらず個性が見えて感情移入できた。白い旗を鯉のぼりに見立てて走る姿にマスクがぐしょぐしょになるくらい泣いた。

若者4人の演技も爽やかでとても良かったが、とにかく萩野さんの芝居が圧巻。若者たちを懐かしそうに見守る愛情深い表情や後半の爽やかな台詞に感情が引っ張られた。色々な想像を掻き立てられるが爽やかで切ない終わり方も良かった。文句なしの優勝。

 

審査員

昨年に引き続き少年誌とナタリーの編集長。加えて今回は中川晃教さん。あっきーの国歌斉唱を聴けただけでもかなり貴重。いつもより緊張してる(?)感じがした。今回から拡樹さんが前説してくれるんだけど、それも良かった。世にも奇妙な物語のタモさん。異なる色の作品が多いので導入にピッタリ。

審査員のコメントも1人1人しっかりと的を射ていて*1、短時間で自分の中で作品を振り返る手助けになった。各社編集長が集まる機会は中々ないそうなので、ここでそれぞれの作品に対する考えが見えるのが面白いし、出版社にとってもメリットしかないのでは!?と思う。

でもクロミちゃんもいてほしかったな〜来年はリターンしてほしいです。こぎみゅんでもいいよ*2

 

総評

学生の頃、吹奏楽部でコンクールに出場した際に出番以外はライバル校の演奏を聞いて順位をつけなさいと言われていた。順位をつけなければと思うと聞くことに集中するし、それが耳を育ててひいては自分たちの演奏の向上にもなるから、と。演劇ドラフトグランプリを観劇していると私たち観客も育てられているように感じる。4時間という長丁場を審査員として観る経験は、観劇という趣味を10年やっていても稀有だ。審査しながら泣いて笑って心を動かされて、ああ演劇って素晴らしいなという気持ちになる。

今回の脚演は前半御三方はどれも好きな作品のある、好きな演出家だった。しかし、私が投票を最後まで悩んだのはこれまで作品を見たことのない後半おふたりだった。こんな形で出会うことができて幸せだったと思う。絶対近いうちに観にいきたい。改めて2.5次元に関わる脚演家の層の厚さを知った。

昨年より投票時間も長くなった*3し、謎のうちわもなくなった*4し、客降りも増えたし、改善された部分も多かった。観客の導線や投票方法など改善してほしい部分はまだまだあるが、この企画の意義を考えると来年以降も改善して開催してほしい。

この企画は先日話題になっていた、観劇する観客や演劇に関わる人の減少を嘆く世の中で未来につながる企画だと思う。赤字でも*5スポンサーを集めるなりして継続してほしい。演劇界の未来のために。

*1:ぶっちゃけ昨年よりコメントしやすい作品が多かったのもある

*2:推しキャラ

*3:でもネット回線は激重

*4:一番星には振りたかった

*5:赤字になるくらいならグッズもっと刷っておいてほしいが