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君を夏の日に例えようか

リチャード三世(柿喰う客&少年社中)

2月下旬〜3月にかけては色々挟んだけど、結局こんなにリチャード三世について考えることがあるのかってくらいリチャード三世について考えたひと月でした。

リチャード三世のお話自体を初めて知ったのは2013年の「鉈切り丸」です。

主演の森田剛は本当にすごかった。

あと、かなり原作に忠実に源平合戦に置き換えています。どうしてこうもぴったり合うのかわからないくらい。

この話が、それはもうしんどくて、2013年しんどいランキング第1位なんですが、そこで初めてリチャード三世というおはなしに興味を持ちました。

といってもツイッターでも散々言ってますが、かなりの苦手意識がこの作品にはあります。

リチャードをどう受け止めればいいのか決めかねていて。

リチャードはとんでもない悪人で、人を欺き、口先だけでうまいことを言い、そしてどんどん殺人を重ねていくんだけど、臆病で、自分の容姿が嫌いで、母親からも冷たい言葉を浴びせかけられて生きているという面もある。

自分にどこまでコンプレックスがあるかで、リチャードに対しての考え方は様々になる気がします。

柿喰う客と少年社中、雰囲気の全く異なる2つの劇団がこのテーマに挑んだ2月と3月。所感をつらつら書きます。

柿喰う客「女体シェイクスピア・完熟リチャード三世」

とにかく登場人物の多いこの作品を女性7人で演じていました。

七味さん曰く、中屋敷さんは最後の亡霊6人とリチャードという場面を意識したのと、7回目の女体ということでこの7人でやることになったそうです。

リチャードを安藤聖さんが演じられていて、あとはみんな役を兼ねて常にステージにいる状態でした。

全員真っ黒のドレス(だいたいミニ)に身を包んで、高いピンヒールを履いて。

最初の幕がばさっと降りた瞬間に7人が素敵なポージングで並んでいるものだから、かっこよくて鳥肌がそわそわしました。

リチャードが常に話を回しており、最初に自分の醜さ、周りからの扱いを話して悪人になると宣言するところから話がスタートします。

話を回す時は普通の姿ですが、自分の台詞のときは身体を大きく歪めて会話します。リチャードが話を回すときに時折哀しみみたいなものが見えて、序盤から泣きそうになってしまい大変でした笑

後半、6人の亡霊と対峙した後の良心を抑えようとする場面で涙腺崩壊。散々殺人を繰り返してきたリチャードが、自分の中の良心をどれだけ抑え込んできたのか。あのたった一言だけでそれを見せてしまう安藤さんがすごかったです。

最後はみんながいなくなってよかった、とお話ししている前で絶望するリチャード、という場面でカーテンコール。1人ずつ並んでお辞儀するものの、リチャードがリチャードのままなので拍手なんかできず、ただただ茫然としていました。

そんなに女体を観たことはないんだけど、今までで1番かなあ。

1時間半という時間もとても良くて、全くお休みがない状態だと、私の集中力はここが限界なんだなあという感じ。

ただ、とてもスピーディーな展開なので、あらすじを知らないと厳しいかも...と思いました。

女性的な面を全開にして、ほぼ男性を演じていたのに、なぜだかその違和感はほぼありません。

女体に見慣れてきたのかもしれませんが。

七味さんが相変わらずかっこよかった。バッキンガム。七味さんはアントニーから本当に男性役は宝塚のような気持ちで見てしまいます。女性のときはとっても女らしいのに。素敵な女優さんです。

1回しか観れなかったので、細かいところを追えてないのが残念。それでも強烈なインパクトを与えてくれた作品でした。

少年社中「リチャード三世」

こちらは全く趣きの違うリチャードでした。

毛利さんは本当にこういう原作があるものを料理するのを得意としてますよね。

純矢くんがリチャードのいわゆる白い部分、ありそくんが黒い部分として演じられていました。

どちらにも独立した個性や考え方があり、前半は主にありそくんの黒リチャードに純矢くんの白リチャードが翻弄され苦しめられていっていました。

前半を観る限りでは、私の考えるリチャードとの違いに違和感を感じていまして。白リチャード必要あるのかな、とかとんでもなく失礼なことを考えながら観ていました。

というのも、私はリチャードは自分の良心を抑え込みながら全くそれを、観客にも気取られずにヒールとして居続けるところに、言いようもない悲しさを感じてしまうところがあって、それが白リチャードによってなかったことにされてしまうのがとっても勿体無かったんですね。たしかにリチャードは整合性の取れない行動が多いんですけど、それもまあ人間なので、と私は受け入れられるんです。それが、毛利さんはなんとか理由をつける演出をされることがあって、それを面白い観点だなあとは思うんですが、これは受け入れるの大変かも・・・と感じていました。

しかし、そんな私の考えなんかより毛利さんは一枚も二枚も上手なんですよね。

白リチャードはマーガレットの呪いによって植え付けられた本来の姿である黒リチャードの「良心」でした。

白リチャードはそれまで、自分に黒リチャードという野心を植え付けられたと思っていたのですが、それが全く逆だったわけです。

そのどんでん返しはとても面白かったです。私は白と黒と良心と野心を分けたのがマーガレットの呪いだと思っていたのですが、それも見事に外れてしまっていました。

マーガレットは白リチャードの「良心」によって黒リチャードが苦しむだろうと思っていたのですが、そこから思わぬ方向へ話が進みます。

白リチャードは黒リチャードの唯一の救いになった。蔑まれ、見下され、大嫌いだった自分自身を救う唯一の存在になったのでした。

この良心、なかったものをマーガレットが植えつけたように捉えられなくもないんですが、どっちかというと初めから黒リチャードにあった良心が呪いによりむくむくと急速に肥大化して、白リチャードが生まれたと考えたいなあ、と思いました。元々あって見ないふりをしてたんだと。白リチャードが生まれたことに気づいた時も、黒リチャードは白リチャードを抑えられると思ってたんじゃないでしょうか?現実を突きつけたら、閉じこもってじっとしていてくれる、と。後半の黒リチャードは白リチャードによって戸惑いや傷つくことを敏感に反応するようになる。なぜか、後半お互いがそれぞれの思惑で行動するようになってから、どんどん1人の人格に見えてきました。不思議な体験でした。

ともかく、2人とラトクリフが心をひとつにして赤薔薇に闘いに行く場面は嗚咽が出るほど泣いていました。

その前に6人の亡霊に夢で襲われたあと、我に返って言う台詞があるんですが、それを白と黒、2人が言うんです。それで意味が通じるところに驚き。すごいなあ・・・。

リチャードに対して共感や同情の念を抱くところにいつもどこか後ろめたさを感じるのですが、社中のリチャードはとても愛しかった。2人のリチャードを抱きしめて頭を撫でたくなるくらい愛しかった。そして少年漫画でした。

最後に母親への愛のメッセージが本当に愛しかったです。母親にとっては呪いの言葉ですね。一生自責の念に苦しめられることになるのだろうなあ、というリチャードの母親が嫌いな私には胸のすっとする終わり方でした(笑)

改めて毛利さんの凄さに気づいたリチャード三世でした。

面白かった。また、少年社中さんの舞台にはちょこちょこ足を運びたいです。

という感じの3月でした。

リチャード三世はいつか矢崎さんにも演っていただきたいなあ。物語の進み方はマクベスと似ていますが根底にある考え方とか感情とかは全然違うと思うんですよね。

リチャードの中にあるのは悲しみや恨み、自己嫌悪と野心というドロドロとした物が多めになるので、マクベスよりさらに苦しむのではないかなあ、と思います。もう少し歳を重ねてから見てもいいかなあと思います。

とりあえず今はハムレットを演ってほしい。次点でロミオかなあ。ロミオはちょっと本当にギリギリの年齢(笑)だと思うのでできたら、で良いです。ロミオが好きというよりロミオとジュリエットというお話が好きなだけなので。

ハムレットは本当に何考えているのか理解できないし、うじうじしてるので、今迄見たことない矢崎さんが見れるかも、と思って演ってみていただきたいと思ってます。王子だし、年齢的にもいい感じかな、と思いますし。

シェイクスピアについて深く知っているわけではないので、もっと勉強したいなあ。

このリチャード月間を経て、もっともっとシェイクスピアが好きになりました。偉大な劇団方に感謝です。