sognamo insieme

君を夏の日に例えようか

ドッグファイト

2015年こんなに行く予定じゃなかった舞台大賞でした。

それなのに名古屋の千秋楽を行きたかったとジタバタしてるなんて、オタクの欲望というものは底なしです。

 

以下あらすじ

 

ベトナム戦争出征前夜のアメリカ、サンフランシスコ―。

エディ(屋良朝幸)と2人の親友・ボーランド中河内雅貴)と

バーンスタイン(矢崎 広)は訓練期間を終えた兵士たちで、

自分たちを“3匹の蜂”(スリービーズ)と称するほど仲が良い。

 

彼らは母国での最後の夜を楽しむために街で大騒ぎをはじめ、【ドッグファイト】に参加する。

ドッグファイト】とは、海兵隊に伝わる、パーティに一番イケてない女の子を

連れてきた者が賞金を得るゲーム。

 

エディは街のとある食堂に行きつき、ウェイトレスのローズ(ラフルアー宮澤エマ)と出会う。

エディはローズをパーティーに連れ出すことに成功し、彼女は生まれて初めてのデートに興奮する。

 

エディはローズの優しさに触れ、次第に彼女をパーティに誘ったことに心苦しさを感じ始めるが、

時すでに遅く、2人はパーティーに参加することになり・・・。

 

ドッグファイト】―それは兵士である彼らに愛情を捨てさせ、

冷徹さを築くために大人たちが仕組んだ罠でもあった。

 

 

以下、感想

 

大阪の初日で観た時には、ボーイミーツガールの後のベトナム戦争がつらすぎて、リピできないかと思ったのですが、最後のカーテンコールの楽しさが回数を重ねる毎に増していき、また私の推しである矢崎広さんのバーンスタインが目まぐるしく演技を変えてくるので、それを追いかけるためにどんどんチケットが増えた恐ろしい作品です。

 

一番素敵だったのはエマローズと屋良エディの丁寧な心の動き。

ミュージカルって歌で伝わってしまうので心の動きを端折ってしまうきらいがあると個人的には思っているので、そこを丁寧にしっかりと描いていて毎回胸がときめきました。

エマローズは元が可愛くて華奢なので、ブサイクというよりは地味でパッとしない子、といった感じなのですが、大人しいと思いきや、嫌なことは嫌、と言える子。そして変に卑屈にならず、見栄を張ってしまうところとか、でもボロが出ちゃうところとか、逆にとても可愛らしく共感できました。

エマちゃんは地声に芯があって、さらに透明感のある綺麗な歌声だったので素直に心に響いてきてとても気持ちが良かったです。

エマちゃんのローズが好きすぎて初めて矢崎さん以外にお手紙を書きました。それほど私にとってローズは革命的な役でした。

こんな女性になれたらいいな、頑張ればきっとなることができると思える女性。

エマちゃんはとてもクレバーで、役への寄り添い方や解釈の深さが優れていたから女性の共感を得ていたのではないかな、と思います。

シスアクのメアリーロバートも観る予定なので楽しみ。あの役もとても共感を得る役だと思うので素敵だろうなあ。

誰より台詞の喋り方が吹き替えっぽくなくて、それも感情移入できる理由だったんですが、帰国子女で英語ペラペラなのに不思議だな〜と思って、「…逆に外国人=吹き替え喋りという概念がないのではないか」という結論にたどり着きました。しかも帰国子女あるあるのWやTHの発音が気にならない!素晴らしいの一言でした。

 

この愛らしいローズをブスだからとパーティーに誘うエディと海兵隊員たちが女性をモノとしてしかみなしていないところが最初とても不快だったのですが、エディがローズを自分と同じ存在だと思い始めたところ、そしてそこから海兵隊員たちと微妙に感情がずれていくところがとても分かりやすくて。屋良くんの演技は毎回安定していて、安心して観れました。そして回数を重ねる毎に海兵隊員たちにも感情移入してしまい、最初は腹ただしいだけだったのに徐々に何も知らされず死んでいく未来が哀れで悲しくなってきました。

 

主な3人のキャラクターとして、ボーランドは1番大人というか、戦争の現実を知っているのではないかと思わせる発言がちょこちょこありました。これから行く場所の過酷さを知っているからこそ、今を楽しんでいるような。戦争の怖さに気づいていない仲間たちにも戦地で後悔しないように、現地での心のあり方を身につけられるように立ち回っていた気がします。ともすれば1番性格悪く見えるんですが、視点を変えると1番仲間想いだったのかもしれません。

 

バーンスタインは、中の人ゆえに特に注目して観てしまっていたのですが、とにかく愛すべきおばかさんというか子どもというか。無垢なんですよね。脳内が性欲で満たされている子ども。戦争なんて自分たちの力があればなんとかなると思っていて、本気で信じていて、最後の夜の馬鹿騒ぎもその前祝いと思ってるみたいで。

女と寝ることしか考えてなくて、女性をモノとしか考えてなくて、ブスな女の惨めな姿を馬鹿にすることも平気だし、強姦まがいなこともする。

…言葉にすると本当最低ですね笑

しかし何故だかバーンスタインは愛らしい子どもに感じるんです。これは矢崎さんの魅力なのでは、としか言えないんですけど。

極力観客が不快感なく観られるようにしていると思いました。ここでバーンスタインボーランドを嫌になってしまうと最後に受ける悲しさが薄まってしまうんですよね。

特にタトゥーを入れる場面でバーンスタインの本来の人間性が出ていたと思っています。

バーンスタインは色んな大人や周りの仲間たちが大好きで心から信頼していて、狭い世界の中で色々なことを知らされずに生きていたのかなあ、と思います。

「知らない」ということが免罪符にはならないと思いますが、「知らされない」というのは一周まわって可哀想になりました。

まわりを囲われていて、その中でなんの疑問も持たずに戦争に行くことをゲームか何かだと思っている。少年兵と言える年齢ではないですが、それくらい無知で無垢に見えました。だから最後の場面が悲しくて、やりきれない気持ちで。前情報で好きになれるか不安なキャラクターだったのですが、私自身は嫌いではなかったです。

タトゥーの場面でニコニコした笑顔で、「お前が俺を守るし、俺がお前を守る」って言うバーンスタインに戦争の恐怖に内心怯えていたのであろうボーランドは救われていたのだろうし、私自身もこの場面でバーンスタインのことが嫌いにはなれないなあ、と思った気がします。

矢崎さん個人の話になると、毎回毎回演技やアドリブを変えてくるので、見逃すまい必死で通いました笑

歌も大分安定してた気が!ミュージカルでもここまでしっかりお芝居作ってくるんだな、と新たな発見だったのでジャージーボーイズも楽しみです。

 

屋良くんが演じた主人公エディですが、心情がボーランドバーンスタインの間に位置しているように感じました。

バーンスタインほど何も知らないわけではなく、どこかこれからの不安が心に引っかかっているけどボーランドほど割り切れない、といった印象でした。

もし、ボーランドバーンスタインがローズを見つけていたらエディのようになったかというと、個人的にはそうはならないと思います。

エディの現状への迷いとか不安とか疑問がローズも自分と同じ意思を持つ人間だということを気づかせたのかな、と。

自分と共通点がある人って親近感から急激に仲を縮められるじゃないですか。ローズが初めてのデート、初めてのパーティーにどきどきしているっていう共通点に気づいて、エディは人間の気持ちをひとつ取り戻したのだと思います。

とにかく最後生き残ってしまったエディの慟哭がつらくて…。

ローズの元に戻ってからの私の解釈が本来と全く違う方向性で、正直蛇足だと思っていました。

今も、もうちょっとやりようがあったのでは、と思いますが、戸井さんのおかげで前向きに解釈できて良かったです。

 

ameblo.jp

 

この見方でもう一度観たいなあ、と切に思います。

 

ドッグファイトは人と人との在り方を丁寧に描いていました。年末ということもあり第九とどこか共通しているメッセージ性が私はとても好きでした。

戦争を題材に残酷な事実を描く話より、「広島に原爆を落とす日」や「ドッグファイト」のように、たった数人の中で起きる悲劇の方が戦争という存在を近くに、そして悲しみを強く感じてしまうんですよね。個人的には、なんですけど。

現代の日本にエディのような人生を送る若者を生み出してしまってはいけない、と強く感じました。

激動の2015年、この作品を今演る意味を強く感じ、観ることができて良かったな、と思いました。