「殺陣が好き、時代物が好きって言ってるけど、刀を振るうことがどういうことか君ちゃんと分かってるの?」
と遠回しに問われまくった舞台でした。
薄ミュ(LIVEだけど)とつむ鴨の間に挟んで観てしまったので、余計にぐるぐると考えてしまいます。
あらすじ
伝説の剣豪として世に名を知らしめるも、その内面は臆病な男、宮本武蔵。
色々と疲れの溜まった武蔵は、湯治のため山奥の宿を訪れる。そこには様々な面々と出会うこととなる。
私たちが考える理想の武蔵像からかけ離れた主人公、宮本武蔵は皆から偽物ではないかと疑われる。
証明のしようもないが、本物と認められたら命を狙われる、しかし偽物と思われても面白くない。
疑心暗鬼の中で、武蔵に恨みをもつ者、討ち取って名を上げたい者、さまざまな思惑が重なって、物語は思いもよらない方向へ。
最後までヒーローらしさも小次郎との決闘もなく、そのだらしなさが笑いを誘う現代会話劇。
“本当の宮本武蔵は、こんなんだったのではないか!?”
感想
実際あらすじ詐欺も甚だしいくらいに、毒を含んだ舞台でした。嘘はついてないけど。
ござる三段活用に「え、あー、うん」の応酬で日常と地続きのお芝居が延々と続きます。
本当にあるあるな場面の連続で、違うところは皆「侍」だということ。「侍」が生きる時代の話だということでした。
ここで語られる宮本武蔵という人間は、コミュニケーション能力が低く、精神年齢が幼い1人の若者でした。「脱力系」とは個人的には思わなかったです。息を吸うように人を殺し、その原因を相手のせいにすることで精神状態を保っていた青年だと思っていました。
この舞台に出てくる宮本武蔵も佐々木小次郎も、あと千代も、人を殺したことのある人間たちはみんな相手のせいにしてるんですよね。
「殺そうとするから」「切りかかってきたから」だから『殺す』
そういう風にしないと人ってメンタル保てないんじゃないの?と言われていた気がします。
たしかに、今兵士のPTSDって有名な話ですし、防衛機制していかないと、当時も精神的に生き抜けなかったのかもしれないです。
ただ、私が今まで色んな作品で観てきた武士は相手の人生を背負って、覚悟を決めて生きていたから、その違いが受け止めにくい部分ではありました。
当たり前のように受け止めていたその志は本当に皆持っていたのか??と問われている気分でした。
考えさせられると同時に腹立たしい気持ちも抱えたのは、図星を指されたような感じがしたからかもしれません。
主演の山田くん、当て書きかと思うような宮本武蔵でした。イタズラなkissしか知らなかったので、本当に素晴らしい俳優さんなんだとびっくり。
イタkiss当時から雰囲気が矢崎さんと似ていると思っていたんですが、そこを特にフィーチャーされることはなくて残念。
現代の若者っぽさ、潜んでいる幼さとサイコパスな感じがものすごくリアル。だからすごく怖かったです。
ラストシーンは毎回山田くんの演技で観客の受け止め方が変わるので、今日はどっちだろうとハラハラしていました。
色んな意見があると思いますが、私は初見の時の印象が「伊織を斬ってない」だったので、そうだったらいいなあと思っています。
じゃないと長年一緒にいた伊織ってなんだったの、と。人が人に与えられる影響ってそんなにないものなの、と悲しくなってしまうので。
山田くんは本当に日毎に印象が変わるので「今日は斬った気がする」「今日は斬ってない」と感想を言い合ってました笑
矢崎さんの演じていた佐々木小次郎は、飄々として摑みどころがない感じ。久しぶりにこういう温度の低い役を見た気がします。前は結構やっていた気がするんですが、最近は熱い男が多かったので。
営業マンによくこういう人いるわって思いながら見ていました。読めないし、自分中心で物事を考えることになんの罪悪感もないタイプだから個人的には関わるのが結構苦手な人種なんですが(笑)こういう役柄も演じられる役者さんだったのを改めて思い出しました。
そして前作JBのボブをこの感じで演じなかったのはやっぱりあえてなんだろうなあ、と1人ニマニマしてました笑
なんかすごいサービスシーンが多くて、肌色多めだったので、毎回じっくり堪能してました。こんなによく脱ぐ俳優さんって他にいるんでしょうか??笑
ありがたいですけど!ありがたいですけど!!
私自身の傾向として小劇場のお芝居ってハマるかハマらないかにはっきり分かれるんですが、今回はどっちにも転ばなかったのである意味珍しかったです。結局巌流島どうしたの?っていうところはずっと引っかかってるんですが。そういうの考えるの野暮なんでしょうか?
殺陣モノが好きな私に一石を投じられた舞台でした。
しかしやっぱり侍は相手の人生を背負いながら生きて欲しい。夢物語なのかもしれないけど。結局つむ鴨で戦う男たちに涙しながら「矢崎広の殺陣が見たいなあ…」と相も変わらず願う私なのでした。