sognamo insieme

昨日の推しに会いに行く

クレシダ

平幹二朗という俳優を生で観ることができるというのは、現代に生きる上でとても幸せなことだと私は思っています。

2年ぶりの平幹二朗さんでした。「蒼の乱」、その前が劇団四季の「鹿鳴館」。初見の鹿鳴館の影山伯爵で撃ち抜かれてしまい、未だにこの俳優さんよりお芝居が上手なお方を私は知りません。

あっちゃんと碓井くんという最近気になるお二人と平さんということ、サクッと最前が取れてしまったことで軽い気持ちで観に行ったのですが、なかなかどうしてめちゃくちゃ好きな作品でした。

あらすじ

1630年代頃のロンドン、グローブ座。

劇団は男性によってのみ構成され、女役は若い少年俳優が演じていた時代。

かつての名優シャンクは、晩年、ここの演技指導者になっていた。そこへ養成所から少年スティーヴンが入所を希望する。

彼の話し方は非常に幼く、シャンクは入所を断るのだが……。

『トロイラスとクレシダ』の上演を控え、ヒロインを演じることとなったスティーヴン。その裏に隠された思惑とは?

そしてシャンクによる猛レッスンが始まる……。

感想

名優シャンクがただの素敵な先生ではなかったのが、とても人間的に魅力的でした。お金にだらしなくて勝手に架空の生徒を名簿に入れて(グッドナイト・ゴートゥーベッドくんなど笑)賃金を着服するし、ハニーの高価なネックレスを奪い取るし、くされジジイ感がとてもリアル。平さんのこんなコミカルな演技を観たのが初めてで、重みのある演技をしながらこんなに笑わせてくれるのかと、不思議な気持ちでした。

そんな先生に悪態をつきながらも嫌いになれない生徒たちも自分の大学時代を思い出しながら、あるあるだなあと思っていました。

1幕はそんなグローブ座の仲間たちとのドタバタ劇なんですが、2幕から芸術について、継承について考えさせられるお芝居だったのがとても好みで。

まるで棒だったスティーヴンにシャンクが熱く指導するようになる場面はガラスの仮面さながらでした。

才能が開花し、民衆が舞台上に求めてるものが分かるスティーヴンと、伝統を重んじるシャンクの衝突する後半は今にも通じるテーマなので、ぐるぐると考えています。

ただ伝統の上に新しいものを作らないとそれは全くの別物になる、だからシャンクから受け継いだスティーヴンの作るものは新しいものとして受け入れられるようになったのだと、私は解釈しています。

全ての芸術はそういう風に出来ているのに、演劇だけそうではないなあと思っていたんですが、私が知らないだけで演劇にもあったんだなあというのが、改めての発見でした。

高橋洋さんのディッキーとシャンクが過去を振り返って語る場面が本当に素晴らしくて…

ディッキーが少年俳優だったことって前半はあまり感じられないんですが、後半のこの場面でビシビシ伝わってくるんですよねー。

高橋洋さんはフェードルの時もお上手だと思っていましたが、今回のディッキーの方が好きです。メガネ姿も美しいし、後半もとても好き。

美しさでいうなら橋本淳のハニーが群を抜いていました。絶対碓井くんが1番美人だと思っていたんですが、あっちゃんがダントツだったなあ…。

お顔というより立ち姿や姿勢があまりにも綺麗だったんですよね。ピンと伸びた背筋や足先まで美しい立ち姿、力の抜けたように見える指先もめちゃくちゃ綺麗で、もう女として完全敗北でした。

ハニーの気位の高さやジェンダーフリーな部分、スティーヴンというライバルに嫉妬しながらも気になって真似してしまう生真面目さや後半の少年俳優としての終わりを告げられた時の表情がすごく素敵でした。よりによってディッキーに終わりを告げられるハニー。彼らは未来の自分と過去の自分を重ね合わせていて、観ていて辛い場面でした。

やっぱり良い俳優ですよね、あっちゃん。個人的に世迷言のあっちゃんも好きだったので、金髪姿が好みなのかもしれません。この舞台の時代に生まれていたらハニーを追いかけていたんだろうなあ…。自分が少年俳優やカストラートにお金をつぎ込むご婦人方になっていたであろう想像は容易につきます。

橋本淳さんの良い意味で役の染まれる部分がすごく好きです。観るたびに印象が変わりますね…!

今回でさらに骨抜きにされたので、これからも観続けていきたい俳優さんです。

スティーヴン役の浅利さんがこのお話の中心なんですが、最初の田舎の素人から成長していく過程が凄まじく上手でした。棒読みなのに何か光るものを感じる演技ってどうやってやってるんでしょうか…。

今まで指導をサボっていたはずのシャンクがつい指導に熱がこもる理由が分かるんですよね。

スティーヴンの実直に芝居に取り組んでいる部分や、ハニーへの恋心がすごく可愛らしくて、孫を見るような気持ちで愛でていました。おばあちゃんになったらスティーヴンみたいな孫が欲しいです。かわいい。あと女役が大竹しのぶさんに似ているような…気がします笑

平幹二朗さんに戻りますが、1幕はあくまで軽妙なお芝居が多く、シャンクの憎めない人柄をご本人なのかなと思うくらいのリアリティで演じられているのですが、2幕からの求心力が凄まじいです。シャンクの本質は伝統を重んじる芸術家。平さんの語られる台詞ひとつひとつが観客に訴えかけるもので、私たちに芸術家としての生き様を魅せてくださってました。

平さんの凄いところは難解な台詞でも明瞭に、伝わるように演技されるところだと思います。

こんなぺーぺーの若僧が平さんの凄さを語ったところでたかが知れてしまうのでこの辺で控えますが、演技にバックグラウンドを感じられるお芝居をする俳優さんが私は大好きなんです。

今年で83歳というご年齢を感じさせない平さんの演技をシアタートラムという小さなシェルターのような空間で観れて、私は幸せものです。今後も出来る限り拝見できるよう頑張りたいです…!(金銭面を)

碓井くん藤木さんのグーフィーとトリジ、花王さんのジョンのグローブ座メンバーも賑やかで可愛くて、シャンクを慕っている空気感が凄く好きでした。

この舞台全体に漂うあたたかな雰囲気とメッセージ性の強さ。そしてシェイクスピアのエッセンス。シアタートラムという日常と乖離しやすい素敵な劇場で。

最高でした。

東京千秋楽おめでとうございました。

(追記)

平成28年10月23日、平幹二朗さんがご逝去されました。

お芝居を拝見できたのは平さんの演劇人生のほんの少しでしたが、それでも彼のお芝居を観ることができて幸せでした。

本当に本当にありがとうございました。

ご冥福をお祈りいたします。